今回は行列とベクトルについて解説していきます。
行列とベクトルは線形代数を勉強する上で、避けて通れません。
この記事を読めば、基本事項について理解できると思います。
この記事の著者
マス夫 @masuo_blog
現役東北大学院生。
大学の数学と物理をわかりやすく解説しています。
目次
ベクトルとは?
数を並べたものをベクトルといいます。
高校で習うベクトルは、以下のような2項数ベクトルと3項数ベクトルであり、平面や空間と対応し、視覚的に理解することができます。
\begin{align}
\mqty(4 \\ 2) \ \mqty(1 \\ 4 \\ 3)
\end{align}
大学でのベクトルは一般の$n$項数ベクトルとなり、向きと大きさを持つ高校のベクトルから拡張されたものとなります。
\begin{eqnarray}
\boldsymbol{ a }
=( \underbrace{ a_1, a_2, \ldots, a_n }_{ 行ベクトル } )
=\underbrace{\left(
\begin{array}{c}
a_1 \\
a_2 \\
\vdots \\
a_n
\end{array}
\right)}_{列ベクトル}
\end{eqnarray}
大学の授業や教科書ではベクトルを$\boldsymbol{a}$のようにして太文字で表します。また、ベクトルの成分を横一行に並べたものを行ベクトル、縦一列に並べたものを列ベクトルといいます。
ベクトルの演算
$n$項数ベクトルになっても、ベクトルの和とスカラー倍の演算は、高校のベクトルと同じようにできます。
和の演算
\begin{align}
\left(
\begin{array}{c}
a_1 \\
a_2 \\
\vdots \\
a_n
\end{array}
\right)=\left(
\begin{array}{c}
b_1 \\
b_2 \\
\vdots \\
b_n
\end{array}
\right)=\left(
\begin{array}{c}
a_1 + b_1 \\
a_2 + b_2 \\
\vdots \\
a_n + b_n
\end{array}
\right)
\end{align}
スカラー倍
\begin{align}
c\left(
\begin{array}{c}
a_1 \\
a_2 \\
\vdots \\
a_n
\end{array}
\right)=\left(
\begin{array}{c}
ca_1 \\
ca_2 \\
\vdots \\
ca_n
\end{array}
\right)
\end{align}
行列とは
行列とは以下のように、数字を縦と横に並べたものです。
\begin{eqnarray}
A = \left(
\begin{array}{rrr}
1 & 6 & 91 \\
5 & 0.2 & -2 \\
3 & 7 & 0
\end{array}
\right)
\end{eqnarray}
行列には文字や記号、複素数なども入れることが出来ます。
次に行列の見方について解説します。
以下のような行列を$m$行$n$列の行列とよび、$m \times n$行列、$(m,n)$行列などと表現します。
\begin{eqnarray}
{m行}\hspace{ 5pt }\left(
\begin{array}{cccc}
a_{ 11 } & a_{ 12 } & \ldots & a_{ 1n } \\
a_{ 21 } & a_{ 22 } & \ldots & a_{ 2n } \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{ m1 } & a_{ m2 } & \ldots & a_{ mn }
\end{array}
\right)
\end{eqnarray} \begin{equation}\hspace{ 30pt }{n列}\end{equation}
さらに、行列のi行j列の成分を$a_{ij}$と表します。
例えば下の行列は$3 \times 3$行列で、$a_{32}= 7$とすることができます。
\begin{eqnarray}
A = \left(
\begin{array}{rrr}
a_{11} & a_{12} & a_{13} \\
a_{21} & a_{22} & a_{23} \\
a_{31} & a_{32} & a_{33}
\end{array}
\right) = \left(
\begin{array}{rrr}
1 & 6 & 91 \\
5 & 0.2 & -2 \\
3 & 7 & 0
\end{array}
\right)
\end{eqnarray}
また、以下の2つの条件が成り立つとき、行列は等しいです。
- 行列の行数と列数が等しい
- 対応する成分がすべて等しい
例えば、以下のような行列を考えます。
\begin{eqnarray}
A = \left(
\begin{array}{cccc}
1 & 3 & 6 \\
7 & 3 & 4 \\
6 & 1 & 5
\end{array}
\right),B=\left(
\begin{array}{cccc}
1 & 3 & 6 \\
7 & 3 & 4 \\
6 & 1 & 5
\end{array}
\right),C=\left(
\begin{array}{cccc}
1 & 3 \\
7 & 3 \\
6 & 1
\end{array}
\right)
\end{eqnarray}
この場合$A=B$は成り立ちますが、$A=C$は成り立ちません。
$A$と$C$は左側の成分は等しいけれど、行列の型が異なるためです。
様々な行列
零行列
以下のようにすべての成分が0の行列を零行列と言います。
\begin{eqnarray}
O = \left(
\begin{array}{cccc}
0 & 0 & \ldots & 0 \\
0 & 0 & \ldots & 0 \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
0 & 0 & \ldots & 0
\end{array}
\right)
\end{eqnarray}
零行列は$O$で表します。また、零行列は行列の型が違うと異なる行列と言うことになります。
\begin{eqnarray}
\begin{pmatrix}
0 & 0 \\
0 & 0
\end{pmatrix},\begin{pmatrix}
0 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0
\end{pmatrix}
\end{eqnarray}
この2つの行列は共に零行列だが、等しくないです。
正方行列
行と列の数が等しい行列、すなわち正方形の形の行列を正方行列と言います。
以下の行列は$n \times n$行列で$n$次正方行列と言います。
\begin{eqnarray}
A = \left(
\begin{array}{cccc}
\colorbox{yellow}{$a_{ 11 }$} & a_{ 12 } & \ldots & a_{ 1n } \\
a_{ 21 } & \colorbox{yellow}{$a_{ 22 }$}& \ldots & a_{ 2n } \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{ n1 } & a_{ n2 } & \ldots & \colorbox{yellow}{$a_{ nn }$}
\end{array}
\right)
\end{eqnarray}
正方行列の対角線上に並ぶ、$a_{11},a_{22},\ldots,a_{nn}$を対角成分といいます。
線形代数ではこの正方行列が後にたくさん出てきます。
単位行列
正方行列のうち、対角成分がすべて1でそれ以外の成分がすべて0の行列を単位行列といい、$E$をつかって表します。
\begin{eqnarray}
E = \left(
\begin{array}{cccc}
1 & 0 & \ldots & 0 \\
0 & 1 & \ldots & 0 \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
0 & 0 & \ldots & 1
\end{array}
\right)
\end{eqnarray}
行列同士の掛け算において、単位行列はどんな行列と掛けても、元の行列になるという性質があります。($EA=AE=A$)
ちょうど、普通の数における1のような存在です。
転置行列
行列$A$の行と列を入れ替えた行列を転置行列といい、${}^t\!A$と表します。
$A$が$m \times n$行列ならば、${}^t\!A$は$n \times m$行列となります。
成分で表すと、以下のようになります。
\begin{eqnarray}
A = \left(
\begin{array}{cccc}
a_{ 11 } & a_{ 12 } & \ldots & a_{ 1n } \\
a_{ 21 } & a_{ 22 } & \ldots & a_{ 2n } \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{ m1 } & a_{ m2 } & \ldots & a_{ mn }
\end{array}
\right) \\[10pt] {}^t\!A = \left(
\begin{array}{cccc}
a_{ 11 } & a_{ 21 } & \ldots & a_{ m1 } \\
a_{ 12 } & a_{ 22 } & \ldots & a_{ m2 } \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{ 1n } & a_{ 2n } & \ldots & a_{ mn }
\end{array}
\right)
\end{eqnarray}
なお、転置行列の転置行列はもとの行列と等しいです。
\begin{eqnarray}
A={}^t\!({}^t\!A)
\end{eqnarray}
例えば、以下のような行列$A$があるとき、
\begin{eqnarray}
A=\begin{pmatrix}
1 & 4 & 6 \\
5 & 1 & 7
\end{pmatrix}
\end{eqnarray}
この時、転置行列${}^t\!A$は以下のようになります。
\begin{eqnarray}
{}^t\!A=\begin{pmatrix}
1 & 5 \\
4 & 1 \\
6 & 7
\end{pmatrix}
\end{eqnarray}
行ベクトル、列ベクトル
実は行列のうち行が1つしかないものを行ベクトル、列が1つしかないものを列ベクトルと言うことが出来ます。
\begin{eqnarray}
( \underbrace{ a_1, a_2, \ldots, a_n }_{ 行ベクトル } ),\hspace{ 10pt } \underbrace{\left(
\begin{array}{c}
a_1 \\
a_2 \\
\vdots \\
a_n
\end{array}
\right)}_{列ベクトル}
\end{eqnarray}
また、以下のような行列$A$に対して、
\begin{eqnarray}
A = \left(
\begin{array}{cccc}
a_{ 11 } & a_{ 12 } & \ldots & a_{1j} &\ldots & a_{ 1n } \\
a_{ 21 } & a_{ 22 } & \ldots & a_{2j} &\ldots & a_{ 2n } \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots &\ddots &\vdots \\
a_{ i1 } & a_{ i2 } & \ldots & a_{ ij } &\ldots & a_{in} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots &\ddots &\vdots \\
a_{ m1 } & a_{ m2 } & \ldots & a_{ mj } &\ldots & a_{mn} \\
\end{array}
\right)
\end{eqnarray}
その第$i$行を行ベクトルとして取り出すと以下のようになります。
\begin{eqnarray}
\boldsymbol{ a }_{i}=( a_{i1}, a_{i2}, \ldots, a_{in} )
\end{eqnarray}
同様にして、第$j$列を列ベクトルとして取り出すと以下のようになります。
\begin{eqnarray}
\boldsymbol{a}_{j}^{,}=\left(
\begin{array}{c}
a_{1j} \\
a_{2j} \\
\vdots \\
a_{mj}
\end{array}
\right)
\end{eqnarray}
こうして取り出した行ベクトル、列ベクトルを使って行列を以下のように表すことが出来ます。
\begin{eqnarray}
A = \left(
\begin{array}{cccc}
a_{ 11 } & a_{ 12 } & \ldots & a_{ 1n } \\
a_{ 21 } & a_{ 22 } & \ldots & a_{ 2n } \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{ m1 } & a_{ m2 } & \ldots & a_{ mn }
\end{array}
\right)
= \left(
\begin{array}{c}
\boldsymbol{a}_{1} \\
\boldsymbol{a}_{2} \\
\vdots \\
\boldsymbol{a}_{m}
\end{array}
\right)
= ( \boldsymbol{a}_{1}^{,},\boldsymbol{a}_{2}^{,} , \ldots, \boldsymbol{a}_{n}^{,} )
\end{eqnarray}
まとめ
今回はベクトルと行列の基本事項について解説しました。
特に今回紹介した行列の見方や表現方法は線形代数をスムーズに勉強する上で必要になるので慣れていきましょう。
次回は行列の演算について解説します。
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